レスベラトロールとは、赤ワイン用ブドウの黒ブドウ、赤ブドウ果皮・葉やピーナツの皮に多い強力なポリフェノールの1つです。
また、植物自身が生成する防御物質、フィトアレキシンでもある。オリゴメリックプロアントシアニジン(OPC)と共に、多くの赤ワインの機能性を担うポリフェノールの1つとしても良く知られており、抗ガン、抗動脈硬化防止、DNAの保護作用や眼病予防の効果が明らかになり始めています。
近年、長寿ポリフェノールや美魔女ポリフェノールとして、非常に注目を浴びている成分でもあります。
サーチュインを活性化してアンチエイジング
レスベラトロールは、ハーバード大学David Sinclairの研究チームであるHowitzらによって酵母の長寿遺伝子サーチュインを活性して寿命を延長することが報告されて以来、急に注目され始めた。
同研究チームが高カロリー摂取を続けるマウスにレスベラトロールを投与すると長寿遺伝子であるサーチュイン遺伝子が活性化され、短命化するはずのマウスが短命化しなかったという論文を発表し、世界中でレスベラトロールの注目度がさらに高まり研究が盛んに行われるようになりました。なお、サーチュイン遺伝子活性による老化抑制は、カロリー制限を行うことでも起こることが知られており、科学雑誌「サイエンス」で報告されたColman らのアカゲザルを用いた実験は、非常に有名です。
引用文献
Howitz KT, Bitterman KJ, Cohen HY, Lamming DW, Lavu S, Wood JG, Zipkin RE, Chung P, Kisielewski A, Zhang LL, Scherer B, Sinclair DA. Small molecule activators of sirtuins extend Saccharomyces cerevisiae lifespan. Nature. 2003; 425(6954): 191-6.
Baur JA, Pearson KJ, Price NL, Jamieson HA, Lerin C, Kalra A, Prabhu VV, Allard JS, Lopez-Lluch G, Lewis K, Pistell PJ, Poosala S, Becker KG, Boss O, Gwinn D, Wang M, Ramaswamy S, Fishbein KW, Spencer RG, Lakatta EG, Le Couteur D, Shaw RJ, Navas P, Puigserver P, Ingram DK, de Cabo R, Sinclair DA. Resveratrol improves health and survival of mice on a high-calorie diet. Nature. 2006; 444(7117): 337-42.
Colman RJ, Anderson RM, Johnson SC, Kastman EK, Kosmatka KJ, Beasley TM, Allison DB, Cruzen C, Simmons HA, Kemnitz JW, Weindruch R. Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys. Science. 2009: 325(5937): 201-4.
抗がん・抗糖尿まで幅広い効果
レスベラトロールは、1997年に科学雑誌サイエンスのJangらの報告によって、注目を浴びるようになりました。このJangらの報告では、レスベラトロールにガンの発現を抑制する効果があることを報告しています。その報告では、発ガンの初発期、促進期、悪性化の3段階すべてをレスベラトロールが抑制することを報告しています。
その後の研究で、イギリス デ・モントフォート大学のゲイリー・ポッター教授らは、このレスベラトロールの抗がんメカニズムも解明しております。腫瘍細胞中に存在するCYP1B1(シトクロムP450)という酵素が、レスベラトロールを代謝すると、ピセアタンノール(Piceatannol)という、ガン細胞を死滅させる物質に変化し、ガン細胞だけを死滅させることを明らかにしました。この研究チームは、その後、同じような働きをする成分群:サルベステロールへの研究へと発展させていきます。
引用文献
Jang M, Cai L, Udeani GO, Slowing KV, Thomas CF, Beecher CW, Fong HH, Farnsworth NR, Kinghorn AD, Mehta RG, Moon RC, Pezzuto JM. Cancer chemopreventive activity of resveratrol, a natural product derived from grapes. Science. 1997 Jan 10;275(5297):218-20.
Potter GA et al., The cancer preventative agent resveratrol is converted to the anticancer agent piceatannol by the cytochrome P450 enzyme CYP1B1. British Journal of Cancer (2002) 86, 774-778.
また、サーチュイン活性は代謝系に密接な遺伝子であり、レスベラトロールは、インスリンなどの代謝系にも機能性を示すと考えられています。Brasnyóら(2011年)の報告では、2型糖尿の患者に対して10mg(5mg×2回)/日で摂取させ、インスリン抵抗値の指標であるHOMA-IR値が有意に低下し、インスリン感受性の改善が認められています。
また、酸化ストレスの低減効果も認められた。レスベラトロールの摂取によって、インスリン分泌に関わるシグナル伝達系を改善したものと考えられています。
その他、認知機能改善や動脈硬化系疾患の予防など、様々な効果が示されています。
引用文献
Brasnyó P, Molnár GA, Mohás M, Markó L, Laczy B, Cseh J, Mikolás E, Szijártó IA, Mérei A, Halmai R, Mészáros LG, Sümegi B, Wittmann I. Resveratrol improves insulin sensitivity, reduces oxidative stress and activates the Akt pathway in type 2 diabetic patients. Br J Nutr. 2011;106(3):383-9.
研究最前線:高用量より低用量!
2012年、レスベラトロールの第一人者シンクレア教授らによって、低用量摂取では直接的なサーチュイン活性の増強が起こっても、高用量摂取では直接的にサーチュイン活性の増強が行らないという報告が行われました。そこで、摂取量の概念も大きく変化しました。レスベラトロールを高含有した素材で、高用量摂取するより、他のポリフェノールと共に、レスベラトロールを低用量で摂取する重要性も増したのです。
近年、レスベラトロールの摂取は、高用量で摂取するのではなく、ナチュラルな素材を用いて低用量で摂取することが主流となりつつあります。また、米国では、メチル化するなど、合成処理により吸収が高められたような素材も利用されています。現在、レスベラトロール市場は、低用量で摂取するナチュラルな素材と機能性を追求した合成処理が行われる素材へと二極化しております。
また、サーチュイン活性化素材としては、NMN(βニコチンアミドモノヌクレオチド)が注目され始め、作用メカニズムが異なる低用量のレスベラトロールと組み合わされるケースも増えてきています。
低用量のレスベラトロール摂取の報告例を紹介した「赤ワイン由来レスベラトロールが良い訳」