ロコモ市場を盛り上げるために何ができる?
イベント概要
「我が社のロコモフードの市場開拓」というテーマで参加企業にプレゼンをしていただき、その後に「ロコモ市場を盛り上げるために各々で何ができるか?」というテーマでフリーディスカッションを行いました。
参加者
お声がけしてなんと(!)翌日お集まりいただいた皆様です。この5社にはすぐにロコモフードの商品化の相談ができます。
アリメント工業:深澤武仁様(取締役営業部長 東京支店長)小野博之様(営業部 営業技術課 課長)
アンチエイジング・プロ:栗山雄司様(常務取締役COO)
甲陽ケミカル:武中大輔様(専務取締役 東京本部長)
CICフロンティア:板波英一郎様(代表取締役)
日本ピュアフード:財津央様(営業本部 新市場開発グループマネージャー)
ロコモフードのキーワードは「骨」「筋肉」「関節」
甲陽ケミカル武中様(以下、武中) ロコモティブシンドロームの予備軍は4700万人いると言われてます。このうちグルコサミンが関与している市場は膝に痛みを抱えていらっしゃる2400万人の方々でして、市場規模は1300t/年。この規模でサプリメントでのグルコサミンの利用者は237万人と推計しており、カバー率はおよそ10%程度と考えております。
アリメント工業小野様(以下、小野) 我々は医薬品寄りの剤形を得意とする総合受託加工会社です。黒子に徹しておりますので自社で製品化することはございませんが、複数の原料を組み合わせたオリジナリティのある原料を顧客の要望に沿うかたちでご提供することがございます。
ロコモティブシンドローム関連では、骨密度に着目して2年前よりエビデンスを重視した開発を行なって参りました。「RBS社のプロテタイト」と「ファーマフーズ社のボーンペップ」を掛けあわせて作用機序がそれぞれ異なるアプローチで骨をサポートする「骨サプリ」という商品コンセプトをご提案しております。
グルコサミンやⅠ型コラーゲンといった原料を組み合わせたご提案ももちろん可能ですし、筋肉サポートのコンセプトの方向性も今後拡充したいと考えております。
CICフロンティア板波様 ロコモで重要なキーワードは「運動」と「骨」「関節」ですが、高齢者にとっては運動でかえって関節や骨に負担をかけることもございます。我々のMSMではそういった筋肉と関節を良好に保つサポートができればと考えております。詳細なデータをこちら(下図)にまとめました。
市場形成期はニーズとエビデンスの情報発信が重要
原料・受託バンク桑高(以下、桑高) アリメント工業様もCICフロンティア様もエビデンスでロコモ市場のセグメントされますね。市場開拓の方法がメタボリックシンドローム市場と近い印象を受けました。血糖値や血圧などの異常値にエビデンスでアプローチする方向性が似てますよね。
一方で、コラーゲン原料なんかは好例なのですがエビデンスが重視されない原料もあるんですね。この「コラーゲン原料の絞り込み条件ランキング(下図)」のデータを見る限り、魚人気は固く、安い原料を求めつつもそれより「安心」できれば「日本産」がいい、という気持ちが浮かび上がってきます。HACCPやトレーサビリティといった仕組みで安全を担保してほしいと思ってますよね。
日本ピュアフード財津様(以下、財津) 弊社はⅠ型コラーゲンを扱っております。日本ハムグループですので品質と安定供給の面で強みを発揮できる豚皮由来のコラーゲンです。コラーゲン市場は6000トン/年と認識していたのですが、先日、健康産業新聞の記者さんに伺うと500トン伸びたとおっしゃるんです。理由を伺うと「ロコモや関節炎のニーズを捉えたコラーゲンが伸びている」とのことでした。
そうは言いましても、コラーゲンは中国の生産コスト上昇と中国国内からも始まった旺盛な需要によりコスト面の高騰と供給面のタイトな現状を踏まえ、安定供給の価値を最も重視する姿勢を貫いて参ります。
武中 ロコモの認知度を上げていかなくてはならない市場形成期においては、まず研究開発の方や商品企画の方に商品化のアクションを起こしていただくために、このニーズのボリュームがどれくらいあって、それに対応する情報がこれだけあると示す必要があると考えております。
グルコサミンで言えば、1000トンを超えた辺りからようやく由来原料(カニ、エビ、微生物発酵など)や産地などの差別化要因と安さと安定供給能力に市場ニーズがシフトしていったという経緯がありました。原料名とエビデンスがセットで認識された後の段階です。多くのメーカー様はグルコサミンを使用するだけでなく、差別化を商品の質、モノづくりの領域で競うようになってきました。
米国のジョイントケア市場の規模から類推すると、日本でもまだグルコサミン市場は2.5倍程度は伸びる余地があると考えてますが、今後は販売量の多い通販メーカー様の市場拡大能力が少し伸び悩みする傾向が懸念されます。そこで未開拓の90%の層のニーズを持った消費者に商品を届けるには既存の販路に被らないルートを模索する必要がでてきている可能性はあります。サプリメントの形状、カテゴリーに留まらないような飛躍も市場を大きく広げるはずです。
桑高 「機能性おやつ」は注目されてますよね。「医療・介護食」の分野にも用途が拡大してます。原料・受託バンクを活用する原料バイヤーは異業種からの新規参入の方々も散見されます。彼らはサプリメントというカテゴリーへのこだわりは少ないです。だけに原料サプライヤーや受託加工の方々とのコミュニケーションが咬み合わないケースも多いですが、注意深く彼らのリクエストに耳を傾けることで大きなチャンスがバカッと開いたりすることもあるんじゃないですか。
小野 ドリンクやゼリーといった一般食品に近い形態へのニーズは出てきてますね。特に美容系、コラーゲンを使用するケースでは多いです。手軽さ、おいしさの追求ですね。濃縮をして医家向け、医薬品に近づく方向と二極化していくトレンドはあります。
「ロコモフード」と「ジョイントケア」は全く別の市場
武中 「ロコモフード市場」とグルコサミンで展開している「ジョイントケア市場」とはまったく別のマーケットとして作りたいです。
関節ケア商品のユーザーは実態として痛みを感じてらっしゃる方がほとんどです。一方、ロコモティブシンドロームは概念を提唱した日本整形外科学会によると、痛みをまだ感じていない方々を対象にしていて「痛くならないようにすること」が重要なテーマとなっております。
ですからこれを「予防市場」と捉えて顧客がウォーキングやランニング、トレッキングを楽しむアクティブ・エイジングの市場やスポーツサプリメント・フード市場などにも波及させていきたい。商品形態も従来のサプリの枠に限定しない方が広がりが生まれます。
この層は40代から始まってます。関節ケアの50代後半から始まり60代70代が中心である層とは異なります。ロコモフードは「Cure」でなく「Care」の市場であるという認識を広めていきたいです。
ただ、これまで健康食品は予防領域では苦戦しているのが実情です。痛みがないので体感が伴いません。実感がないものへの投資は習慣として消費者に定着しにくい。メタボでも開拓が難しいこの予防市場を構築するには、食品業界で団結してロコモフードを共通言語としての同じ目標を持っておきたい。ターゲットの明確なイメージを共有しながら一緒にチャレンジすれば越えられない壁ではないと信じてます。お客様にいつも同じメッセージを伝えられるような活動にしたい。
”ウォーキングは60歳になっても70歳になっても続けたい。”、”東京マラソン、今年抽選で落選してしまったけど来年こそ東京の街を思い切り走りたい。”そういったアクティブで健康志向の強い方々にも活用いただけるような市場にしたいんです。
ジョイントケア商品のユーザーは実態として痛みを感じてらっしゃる方がほとんどです。一方、ロコモティブシンドロームは概念を提唱した日本整形外科学会によると、痛みをまだ感じていない方々を対象にしていて「痛くならないようにすること」が重要なテーマとなっております。
ロコモフードの商品レシピを確立せよ
武中 もうひとつロコモフード市場を広げる大きな要素は「商品レシピ」の認知をどう広げるか、です。関節ケアなら「グルコサミン」「コンドロイチン硫酸」がすぐに思い浮かびます。「コラーゲン」や「ヒアルロン酸」などが入っているものなら美容を想起し、「ブルーベリー」「ビルベリー」ですと「アイケア」です。こういった一般の消費者にも容易に「ロコモティブシンドローム」を想起いただけるような商品レシピをどう生み出し、認知を広げるのかが重要だと考えます。
ウォーキングを楽しんでいる方々の「今後も続けたい」という願望の裏にある「来年も続けられるかしら・・・」という不安。それを少しでも和らげるためにこんな栄養成分、こんな食品を取るよう心がけよう。それを具体的にイメージしていただくことが、予防のためのロコモフードの一番の価値観じゃないかと思うのです。
お医者様がこのロコモティブシンドロームのコンセプトを作った時の目標が予防であるなら、我々企業はもう少しそれを現実の生活の中で生まれる細かなニーズに当てはめて、その時に求められる最適な商品形態のバリエーションを広げていくこと。それは運動療法のアプローチもありますし、シューズやサポーターなどもあるでしょう。食品栄養学からのアプローチもあります。そこではコラーゲン、グルコサミンやコンドロイチン硫酸、MSMといった関節系や骨強化系の原料であったり、筋肉系のアミノ酸類などの組み合わせが最も商品化の近道だろうと。
小野 確かに「骨」「筋肉」「関節」のそれぞれのキーワードにメインとなる原料は確定してますね。しかしロコモに必要な「骨・筋肉・関節」の3つのキーワードをどれも含む原料はまだ確立されてません。ここは市場としてチャンスだと思います。「骨」「筋肉」「関節」のそれぞれのアプローチで併せてロコモにいいよ、とプロモーションするのももちろん良いですが。
武中 「骨・筋肉・関節」の3つのキーワードを含む原料となると、「コラーゲン」くらいじゃないですか?
アリメント工業深澤様 カルシウムもありますね。でもカルシウム剤は吸収率があまりよくないことが知られてます。安価で利益が上がらないので企業が売りたがらないのも難点です。いずれにしてもカルシウムを摂れば骨が強くなるわけではないんです。骨の強さも「骨質」と「骨密度」の両方をケアしなくてはいけませんね。骨が強くなったかどうかは爪に現れるんですよ。骨と爪は意外と相関性がありまして、骨がいい状態だと爪の状態も良くなるし、美容にも良いそうです。ご自分の爪の状態をよく知ってらっしゃるのは若い女性ですのでこの層にもアプローチできるんですよ。
武中 若い世代から売れているコラーゲンドリンクを飲んでお肌への影響を実感できる層は栄養不足と言えるかもしれませんね。サプリメンテーションの知識は若い彼女らにもきっと必要なのでしょうね。
中小零細企業がフォローしやすい仕組みを作る
桑高 ロコモティブシンドロームは厚労省も日本整形外科学会も博報堂のバックアップのもとでプロモーション活動にあたるので認知度が高まることは確実でしょうね。そうなると大手メーカーはテレビCMもするでしょうし、コンビニやドラッグストアで専用棚を占有して大々的に販売するでしょう。しかしこの健康食品産業を支えているのは、原料サプライヤーと受託企業にとってのメイン顧客は、中小零細企業ですよね。彼らにこの「ロコモフードのビッグウェーブ」にいかに”乗っかりたい”と思っていただけるかであるし、いかに”乗っかりやすさ、参入しやすさ”を提供できるかが重要ですよね。例えば、アリメント工業に相談すればこんなコースとあんなコースが用意されていてお好きな方をお選びいただくとすぐに商品化のプロジェクトが始まります、といったような。
”ロコモフードを商品化したい”と思った時にすぐ相談できる人がいるといいですね。コンシェルジュとかJRみどりの窓口のような。それも「運動と栄養」のふたつの領域を繋ぐ必然的な理由を持つ方が最適ですね。
武中 ロコモフードの市場形成の初めの段階は食事メニューだと思います。ロコモのキーワードである「骨」「筋肉」「関節」に良いメニューについて自治体様や管理栄養士の方々への提案、連携をお願いしているところです。普段の食事から意識する人が増えて、毎日の食事からきちんと取ることを最初の目標にする。でもそこでは毎日きちんと欠かさず摂ることが難しいから簡便に取りたいというニーズが生まれ、食事のボリュームを下げて栄養成分のボリュームだけを上げるニーズに変化して栄養強化型食品やサプリの需要連鎖にやがてなりますから。
桑高 自治体と管理栄養士ですか。中小企業が新規参入しやすい仕組みを一緒に考えたいですね。管理栄養士の方々をまとめてる組織もいくつかあるので力になってくれるかもしれません。運動シーンに合わせた商品販売ですとフィットネス企業からも仲間を募りたいところです。
消費者が商品の必要性を認識して商品購入する、といった流れが仕組み化されているのはやはりメタボリックシンドロームでしょうね。健康診断で自分の体の状況を数値で認識し、ドクターの指導という動機付けで商品購入まで行く流れがしっかりできます。
武中 メタボとロコモの決定的な違いはその健康診断で測れないことですね(笑)。メタボは一般的な検診で腹囲測定や血液検査等の基準が数値化されていてメタボと診断されれば内科医の先生方を中心に健康・栄養指導が始まります。この仕組みがしっかり構築されてたので瞬く間に普及しました。ところが通常の検診では外科医の先生方が関与できる余地がほとんどないですよね。外科領域はまだ健康診断からも栄養学からも遠いのが現実です。
アンチエジング・プロ栗山様 私はコンサルタントとしてクリニックの通販を手がけてます。ビジネスの意識の高い美容形成外科は多いですが、健康診断に力を入れているクリニックでもサプリメント販売の潜在ニーズは充分あると感じてます。ただ課題もたくさんあります。販売者がクリニックのスタッフ様である場合、まだまだ医療現場ではサプリメント販売への抵抗感は根強いです。
桑高 仮に外科医の働きかけでロコモチェックのような運動の必要性を感じていただけたとしても、食品で補うという行動を引き起こすにはまだ超えなくてはならないハードルがあるように思えます。40代前半の方々が足腰の未来の痛みを今の自分の問題として受け入れられるかもひっかかります。メタボに比べると弱いですよね。血液検査の結果で指導されるのは大きなショックを与えられるし、普段の自分の食生活や、体型の肥満化といったのはすべて自己認識が伴いますから。
武中 40代をターゲットとする場合は、ランニングやトレーニングをされているアクティブ層に筋肉疲労の軽減などで提案できますよ。トップアスリートやマニアな方々にウケるようなコアな層から広げると良いのかもしれません。30代でも健康志向の強い方は普段から運動と栄養について意識が高いです。ウォーキングや登山などで水分補給するときにただのお茶よりスポーツドリンクを選択するシーンはたくさんあります。サプリメント先進国の米国ではスポーツをするシーンで簡易栄養食を摂るライフスタイルが生まれてきているそうですが、世代毎に40代には40代に必要な栄養素を、60代には60代の・・・といったように選択肢の広がりもありそうです。水泳する人とランニングする人では必要な栄養素も異なる、といった広げ方もいいですね。